2017-01-26 宇宙ビジネスの新潮流:

2017年の宇宙ビジネス、ここを要チェック!

米SpaceXの打ち上げサービス再開など、年明けから宇宙関連のビッグニュースが続いている。今回はますます勢いが増す宇宙ビジネス業界の2017年を展望したい。

新年に入り、宇宙関連のビッグニュースが続いている。昨年10月に打ち上げ前の爆発事故に見舞われた米SpaceXのロケットが1月14日に打ち上げサービスを再開。翌日の1月15日には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、世界最小級の小型衛星搭載ロケット「SS520」4号機の打ち上げ実験を行ったが、途中で第二段モータの点火が中止された。残念ではあるが、世界的に見ても画期的な取り組みだ。

 今回は、ますます勢いが増す宇宙ビジネス業界の2017年を見通したい。

世界(1):トランプ政権の宇宙政策

 民間宇宙ビジネスの取り組みが進む米国では、トランプ新政権の宇宙政策に注目が集まる。オバマ政権時代には2010年の国家宇宙政策などで商業宇宙政策が強く打ち出されており、商業宇宙分野での技術革新や起業の促進、公平でオープンな商業活動育成、政府による商業宇宙技術・サービスの購入、使用が示されるなど、産業振興が行われてきた。こうした政策が今後どのように変わるのだろうか。

 トランプ大統領の宇宙関連アドバイザーを務める元下院議員のロバート・ウォーカー氏は、FAA(米連邦航空局)の会議で9つの方針を示しており、宇宙開発における米国のリーダーシップ、NASA予算の地球科学から深宇宙開発へのシフト、21世紀中の太陽系有人探査、地球低軌道領域における民間企業へのハンドオーバーなどのキーワードを挙げている。全容はまだ見えておらず、今後の政策方針は注目だ。

世界(2):打ち上げロケット「再利用」や「小型」のコンセプトが具現化

 宇宙ビジネスが発展していくための前提条件とも言える打ち上げサービスは、「価格」「頻度」「投入軌道」「スケジュール」などさまざまな課題解決のために、近年は再利用ロケットの開発や小型衛星専用ロケットの開発などが進められてきた。2017年はそのコンセプトが具現化していく年になりそうだ。

 SpaceXは再利用ロケットによる初の商業打ち上げサービスを衛星通信大手欧SESと契約していると言われており、打ち上げ時期の発表が待たれる。小型衛星専用ロケットは、米Rocket Labや米Virigin Galacticが開発を進めており、前者は2017年に最初の打ち上げを、後者は2018年に打ち上げを計画している。時期に関してはずれることも多いが、いずれにせよ2017年には大きな進展が期待されている分野だ。

世界(3):宇宙旅行実現に向けた有人テスト飛行

 多くの人が待ちわびている宇宙旅行も、2017年に進展がありそうだ。ジェフ・ベゾス氏率いる米Blue Originは当初計画通り、2018年の商用フライトを目指して、2017年末には初の有人テスト飛行を計画している。将来的に「宇宙に数百万人の人が暮らし、働く世界を作る」というベゾス氏のビジョン実現に向けた大きな前進だ。

 また、操縦士2人と乗客6人が搭乗できる有翼の宇宙船で宇宙旅行実現を目指すVirgin Galacticも、現在滑空テストを繰り返しているが、このまま順調にいけば2017年半ばには動力テストを行うと発表している。2014年の試験飛行中の墜落死亡事故を乗り越えてきた同社の取り組みに、多くの注目が集まっている。

2017年の宇宙ビジネス、ここを要チェック! (2/3)

ベンチャー企業を中心に進んできた小型衛星開発と衛星ビッグデータ利用は、2015年まではさまざまなプレイヤーとビジネスモデルが乱立していたが、昨年に企業間の買収・統合・提携などが進んだことで、産業バリューチェーンの多層化、水平分業化という業界構造が少しずつ明らかになってきた。今年はより鮮明になるだろう。

 具体的には、米Planetや米Terra bellaのような、(1)衛星設計・製造・配備(2)衛星データプラットフォーム+APIの提供、米Orbital insightなどの(3)衛星画像解析サービス、IT大手米IBM傘下の米Weather companyや米Farmlogsなどの(4)他データ統合&ソリューションの提供、というレイヤーに分かれてきている。特に(4)は宇宙データ利用というより、昨今のIoT(モノのインターネット)化やデジタル化の流れの中に宇宙がどう絡めるかが課題だ。

世界(5):宇宙資源開発が主要テーマに

 地球近傍を離れた深宇宙の領域でも今年はマイルストーンがある。米国では2015年末に商業宇宙資源開発を認める法律が制定された。呼応する形で2016年にはルクセンブルクが宇宙資源開発の欧州ハブとなるためのイニシアチブを立ち上げ、200億円のファンドを準備。さらに米国同様に宇宙資源開発を認める法律案を公表済みで、2017年中に成立する見込みだ。

 欧米以外には、中東のアラブ首長国連邦でも欧米のような法律制定の予定があると報道がされている。また国連の宇宙平和利用委員会(COPOUS)でも2017年の議題として宇宙資源開発が採択されるなど、法律、政策、技術開発、投資など包括的な議論が加速していくことが予測される。こうした国際世論形成に日本がどのようにかかわっていくかも重要なポイントだ。

 以上が、米国を中心とした世界の動きだが、次に日本の動向をチェックしてみたい。

日本(1):宇宙ベンチャーは商業化に向けた第一歩

 過去2年で総額80億円ほどを資金調達してきた宇宙ベンチャー企業が、2017年は商業化に向けた大きな一歩を踏み出す。衛星ベンチャーのアクセルスペースは将来的に小型衛星50基の打ち上げを計画しているが、その第一世代として今年3機の衛星打ち上げを計画している。また、宇宙資源開発を目指すispaceが運営するチームHAKUTOが参戦している月面無人探査レース「Google Lunar XPRIZE」の期限が今年末に迫っている。多くの取り組みが成功することを期待したい。

日本(2):異業種企業が宇宙ビジネスに踏み込むか

 2016年は異業種企業による宇宙ビジネスへの参画が加速した。通信企業、自動車メーカー、エアライン、商社など、多数の企業が宇宙関連企業をスポンサー、業務提携してきている。他方で、こうした大手異業種企業が本格的な宇宙ビジネスに踏み出すかは今後の焦点だ。昨年末にソフトバンクが発表した衛星インターネットベンチャー米OneWebへの1000億円投資のように、ヒト・モノ・カネが動き出すと、宇宙産業拡大の流れにつながっていくだろう。

日本(3):H3ロケットや準天頂衛星の国プロも山場

 他方で政府主導の大規模プロジェクトにとっても2017年度は重要だ。日本版GPSとも言われる準天頂衛星は、昨年までに初号機が打ち上がっており、今年度追加3機の打ち上げを計画。新型基幹ロケットのH3も2017年度は開発の山場であり、キーとなる技術やエンジンの実証実験が行われる。測位衛星システムや基幹ロケット開発は米国、欧州、中国なども進めており、日本の取り組みに期待したい。

日本(4):宇宙産業ビジョンの策定

 政策面では、昨年11月に宇宙二法が成立したことは記憶に新しい。2017年の注目は「宇宙産業ビジョン」だ。現在、筆者も委員として参加している内閣府 宇宙産業振興小委員会で議論が重ねられている。法律による制度的担保は重要だが、政策的支援も重要だ。政府では「海外展開タスクフォース」「S-NET」など複数の産業支援策が行われているが、先行する米国などでは過去10年にわたりさまざまな政策が打たれてきている。今後の日本の宇宙政策に注目が集まる。

 最後に、少しだけ宣伝をさせていただきたい。筆者が主催する宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2017」が2月28日に開催される。手前味噌だが、2017年の宇宙ビジネスを見通す上で絶好の機会と言えるだろう。

 2回目となる今回は、ベンチャー、大手企業、異業種企業、政府関係者、欧米有識者など総勢20人以上が登壇。数百人の方々が来場する予定だ。宇宙ビジネスの熱気を肌で感じるまたとない機会であり、ご興味ある方はWebサイトより事前登録してご参加いただきたい。読者の皆さんとも会場でお会いできれば幸いである。