2016-05-19 米宇宙計画を脅かすロシア製エンジン論争

国際宇宙ステーション関連費用など増大の恐れ

米国防総省の衛星の打ち上げでのロシア製ロケットエンジンの使用をめぐって米議会で激しい論争が続いている。一部の航空宇宙業界関係者からは、国際宇宙ステーション関連など特定の非軍事的宇宙計画への財政面での影響を懸念する声が出ている。

 ロシア製ロケットエンジン「RD-180」は現在、米軍が使用するロケット「アトラスV」に採用されている。議会ではRD-180の使用制限をめぐる議論が過熱し、国防総省から打ち上げを引き受けているユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)を動揺させている。ULAは米航空宇宙大手のボーイングとロッキード・マーチンの合弁会社。

 関係者によると、今後10年間、アトラスVで国際宇宙ステーションに貨物や宇宙飛行士を輸送するという米航空宇宙局(NASA)の計画にまで影響が及ぶ可能性があるという。

 国防総省の任務にロシア製のロケットエンジンが使用できなくなれば、アトラスVの年間打ち上げ回数は大幅に落ち込む。その結果、少ない打ち上げ回数で巨額の経費を負担せざるを得なくなり、NASAが予定している打ち上げの費用が上昇する可能性が高い。

 一部の業界関係者の見積もりによると、NASAの今後のロケット打ち上げ費用は数億ドル上昇する可能性がある。

 ULAは今のところコメントを出していない。NASAの広報担当者は電子メールで、受注企業は「与えられた任務を果たすために必要な全てのハードウエアを提供する義務」があり、なんらかの理由で入手できない場合は「代替品を確保する責任がある」と述べた。

 事情に詳しいある関係者によると、NASAのボールデン長官とボーイング幹部は最近のテレビ会議でロシア製ロケットエンジンに関する問題を取り上げた。ボーイングは国際宇宙ステーションに宇宙飛行士を輸送するためのカプセル型宇宙船「スターライナー」を他社と共同開発中。スターライナーはアトラスVでの打ち上げを予定している。

 起業家イーロン・マスク氏率いるスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)もNASAから宇宙飛行士輸送任務を受注しているが、打ち上げには他のロケットを使用する予定で、アトラスV関連の影響はないとみられる。

 ボーイングの宇宙開発部門バイスプレジデント、ジョン・エルボン氏は18日、下院科学宇宙技術委員会小委員会の公聴会に出席し、打ち上げの頻度が減れば1回あたりの打ち上げコストが上昇する可能性があると指摘し、「懸念している」と述べた。民間による宇宙飛行士の輸送にも「最終的には影響」する可能性があるとも述べた。ただ、コストがどのくらい上昇するかについての見通しは明らかにしなかった。

 コスト上昇はNASAが予定している他の重要任務にとっても障害となる可能性がある。2人の業界関係者によると、国際宇宙ステーションへの貨物輸送任務を受注したシエラ・ネバダはアトラスVが使用できなくなる可能性を考慮して、ロシアや欧州のロケットの使用について協議を始めた。

 国防総省幹部は軍関連の打ち上げでのRD-180の使用を早期に中止することに反対している。同省の武器調達トップはRD-180の使用を急に中止すれば、ロケットを製造するULAの存続が危うくなると述べている。しかし議会では意見が一致せず、議論が続いている。(WJ)