2006-08-26 日本版宇宙グッズ、進む研究開発 足袋シューズ・布団…

 月旅行も売り出され、ぐっと身近になってきた宇宙。実際に行くなら居心地にもこだわりたいと、快適さを重視した宇宙生活用品の開発が始まっている。足袋にヒントを得た運動靴や綿入れ布団の利点を生かした立体布団など、日本ならではのきめ細かな技術が光る。後押しする宇宙航空研究開発機構(JAXA)は「将来、宇宙を日本製品の見本市に」と期待を膨らませる。

◇飛行士の声聞き工夫

 タッ、タッ、タッ、タッ……。静かな室内に足音だけが響く。スポーツ用品メーカー「アシックス」(神戸市)の実験室で「足袋シューズ」の性能試験が進んでいる。

 無重力空間では、骨や筋肉の衰えを防ぐためにトレーニングが欠かせない。しかし、同社を訪れたロシアの宇宙飛行士は「宇宙では皮膚が敏感になり、靴下をはいても靴擦れした」と訴えた。

 そこで、柔らかい人工皮革を内側に張り、足全体を優しく包み込むように工夫した。はいているだけでトレーニングになるように、かかとからつま先にかけて靴底に傾斜をつけ、つま先は足袋状にした。

 靴底のヒントはダイエットに効果があると人気のウオーキングシューズから。全体の構造は東京オリンピック前後のブーム時にゴム底とひもを付けて作った「マラソン足袋」から。「足袋のシンプルな構造が、今回めざしていた優しい宇宙靴のコンセプトにぴったりでした」と開発担当の田川武弘さんは話す。

 無重力状態で寝ると、自然に腕が上がり、ひざが曲がる。この姿勢でも体に沿い、暖かい空気が逃げない構造は――。

 江戸時代から続く寝具メーカー「西川リビング」(大阪市)が追求したのは「SPACE FUTON(宇宙布団)」だ。緑色と紫色が鮮やかな寝袋で、体の線に合わせた独自のキルティング加工が売り。綿ぼこりが飛散しないよう、特殊加工した繊維を使う。

 現在、宇宙船内では布だけの寝袋をベルトで壁に固定して寝ている。開発担当の吉兼令晴さんが日本人宇宙飛行士たちに寝心地を尋ねると、「寒くて目が覚めたことも」「窮屈だ」などの声が返ってきた。

 「寒がりには快適ではなさそう。それに日本人には少し厚みのある『布団』の方が安心感もある」と吉兼さん。

 グッドデザイン賞を受賞した同社の立体型布団をもとに試作を続け、航空機を使った無重力実験で「空気に包まれたような肌沿い」を実現するまでにこぎつけた。秋には5作目の試作品を米国で訓練中の日本人飛行士たちにみてもらう予定だ。

 どちらも04年からJAXAが公募する「宇宙オープンラボ」の一環。技術指導と年間最大3000万円の資金が最長3年間提供されるもので、現在20件が選ばれ、ビジネス化をめざして研究が進む。

 宇宙での生活用品は、難燃性など厳しい国際基準にかなった「認定品」カタログから飛行士が選んで使ってきたが、大半は米国製とロシア製。いかつく、使いにくいものも多く、「きめ細やかな技術を生かした日本製をもっと増やしたい」とJAXA産学官連携部の内冨素子さんはいう。

◇さわやかな目覚めの照明装置も

 那須高原のエゾムシクイ、八ケ岳のカッコウ、屋久島のミソサザイ――そんな野鳥のさえずりを流しながら、さわやかな目覚めを促す照明装置もその一つ。

 国際宇宙ステーションは地球を90分で1周するため、45分ごとに昼と夜が訪れる。蛍光灯を使って地上と同じ時間帯で暮らすようにしているが、「窓も小さく、地下室のよう」と内冨さんは居住性の難点を指摘する。

 そこで白羽の矢が立ったのが、都心のホテルでビジネスマンに好評の照明装置。宇宙用には、小型で長寿命の発光ダイオード(LED)を使う。松下電工の阪口敏彦さんは「障子越しに差し込む朝日に近い光加減で、生体リズムを整えるのに役立てたい」と話す。

 繊維メーカーの東レは光触媒技術を使った普段着用新素材を開発中。静電気を抑え、抗菌・消臭機能も持たせる。洗濯ができない宇宙で、いつもさっぱりしたTシャツが着られることが目標だ。

 共同開発に携わる日本女子大学の多屋淑子教授(生活工学)は、「宇宙という厳しい環境に対応した技術は、将来、地上でも生かせるはず。それぞれの企業の得意分野を生かした新技術が生まれれば」と力を込める。(Asahi.com)

(編集者コメント:なんともコメントのしようがない”共同研究”内容である。すぐにでも商品化できそうな気もするが。宇宙に興味をもってもらおうという啓蒙活動の一環ということであろう。しかしながら多種多様な面白い商品が開発されれば、ポップカルチャーの日本から世界的にヒットする商品も夢ではない。)