2016-08-24 人類は原始時代に戻れない 枯渇する資源を宇宙で獲得する時代へ

地球の資源がいつか枯渇し、地球は文明を維持できなくなる日が到来する。そうしたクライシスを乗り切るために「地球の外に資源を求める時代がくる」と東京大学総合研究博物館の宮本英昭准教授(固体惑星科学)は主張する。「産業革命に匹敵するほどの文明の大転換」に向けた現状と未来について、宮本准教授に話を聞いた。

今日の世界では、人口の増大や生活レベルの向上などによって、地球が長い年月をかけて蓄積してきた資源を、極めて早いスピードで消費しています。特に、金属資源についてはエネルギー資源と同じく100年以下で枯渇するとされており、これらが枯れるのをだましだまし先延ばしつつ、何とかかじ取りをしようとしているのが今の地球文明です。

 ならば、人類は原始時代の生活に戻れば良い、という意見がありますが、これは話になりません。全人類が太古の生活をすると仮定すると、地球上に1億人程度しか住めない計算になります。世界の全人類の70億人のうち、残り69億人はどうすればいいのか。元の道に戻る選択肢はもはやありえないのです。全人類がエネルギーも資源も食料もふんだんに使い続ける未来も、ありえません。

宇宙資源の獲得は産業革命に匹敵する大転換に

 こうした状況を解決するには、資源の流出量を抑える(省エネ化を図るなど)、もしくは流入量を増やすという2通りが考えられます。前者の代表的な考えとしては、持続可能社会の実現を目指すというものでしょう。わたしは後者の考え方、地球以外のところから無尽蔵の資源を採ってくるのが決定的な解決策ではないかと思っています。それが、宇宙資源です。

 なお、資源工学的な「資源」の定義には、経済的な合理性を持つことが含まれます。別の惑星に金属資源があったとしても、地球で採るよりも高コストなら資源とは言えませんので、現時点で「宇宙資源」は存在しません。ただ今後、宇宙から資源を持ち帰って、それがコスト的に見合うなら宇宙資源はある、ということになるでしょう。もしそうなれば、産業革命に匹敵するほどの世の中の大転換になると思います。

有望視しているのは、地球の軌道に比較的近い軌道を持つ近地球型小惑星です。地球から近いので、比較的燃料が少なくて済みますし、太陽光で電力を得られます。

 小惑星のかけらである隕石は、鉄とニッケルの合金からなる鉄隕石や、おもにケイ酸塩鉱物で構成される石質隕石、鉄隕石にケイ酸塩鉱物が混じったような石鉄隕石に大別されます。鉄隕石のなかには、鉄が98%含まれるものもあります。鉄は、地球上で酸化鉄として存在しており、還元して金属として使用するために大量のエネルギーが必要ですが、隕石の中には還元する必要のない鉄が多く含まれる鉄隕石もあります。これを資源として活用できれば、精錬に使用するエネルギーが少なくて済むと見込まれます。

 地球の中心核の主な主成分は鉄です。地球が形成される際、白金族など鉄に溶けやすい元素が中心核に集まり、その分地表で採れる量が少なくなりました。小惑星ではそういった大規模な形成プロセスを経ていない可能性があり、地球の鉱石よりも白金族元素が多く含まれる隕石もあります。

宇宙資源の獲得は500年先か1000年先か

 6月の日本学術会議のシンポジウムでは、わかりやすい例として、半径1kmの金属型の小惑星の場合、これまで人類が生産した鉄の総量に匹敵する鉄と、これまでの総生産量の倍の白金がもたらされる可能性もある、という話をしましたが、現時点でまだそうした有望な小惑星が本当に存在するのか否かは明らかではありません。あるいはないのかもしれませんが、存在したとしてもけっして不思議ではありませんし、今後の惑星探査に期待したいと思います。

 有望な小惑星が見つかったとして、そこから資源を持ち帰るには、かなりの技術的な進歩が必要です。現状、人類は地球に向かう小惑星の軌道を変えることすらできません。実現に向けては発想の転換や、SF的な考え方が必要になります。たとえば、月に小惑星をぶつけて、そこから超伝導技術を活用して片っ端から地球に送るとか。地球に持ちかえるには膨大なエネルギーが必要ですが、ちょっと軌道を変えて月にぶつけるだけなら大分難易度は下がります。今日の宇宙開発においても、そうしたSF的な想像力が求められる局面もあります。今は、そうしたアイデアを皆で柔軟に考えるフェーズにあるのではないでしょうか。

 工学系の研究者は、「宇宙に特別な物理はない」とよく言います。一見奇妙な現象に思えても、空気抵抗がない、温度が低いなどの条件を考えれば、わたしたちの知っている物理と同じで何ら特別なことはない、と。だから今までとは違う発想でトライし、乗り越えて得られる成果を1つずつ積み重ねていけばいいのです。

 宇宙資源を採掘し、持ち帰るのは、500年先、あるいは1000年先になるかもしれません。現状、さまざまな人々が取り組んでいる循環型社会の構築や、高効率な自然エネルギーの研究などの活動は、地球文明を延命する上で、すべてものすごく重要です。宇宙資源を採掘する時代が来るまで、地球を破綻させず、持ちこたえさせなければなりません。

宇宙資源を採掘する時代の実現に必要な要素

 宇宙資源を採掘する時代の実現に必要な要素として、1つ強調しておきたいのは、「文系の力の重要性」です。

 科学技術だけが発達しても、野蛮人だらけだと、あっという間に人類は滅亡するのではないかと思います。2500年ごろには、ボタン1つで地球が壊滅するような武器が作れたりする可能性だってあります。

 科学技術とともに、文化もさらに発展させなければなりません。人々の心を穏やかにする音楽を演奏できる人、美しい絵が描ける人、みんながハッとするような短歌が詠める人など、人類の感受性を豊かにする能力を持った人々は人類にとって極めて重要です。

 ノーベル賞を取るような人だけではなく、そういう才能を持った人々が活躍して豊かな文明社会を作ることもまた持続可能な社会づくりと言えますし、人類の発展には欠かせないと思います。

(取材・文:具志堅浩二)

(編集者コメント:小惑星から鉱物資源を採取するという考えは、はるか40年以上にさかのぼる。採取する場合のコストが重要であることは言うまでもないが、日本の問題は、実際にだれが始めるのか、ということ。議論だけが踊り、実際の行動は欧米ロ、そして中国にも追い越される、というのが実態。実行動ができないのであれば議論をする意味さえもなくなる。)