2006-04-25 新宿・歌舞伎町でロケット談議

 東京の新宿・歌舞伎町。不夜城とも形容されるこの街の夜のライブハウスで、日本のロケット開発を熱く語るイベントが定期的に開催されている。主役の一人が、NPO法人「二見浦・賓日館の会」事務局長で、元ロケット技師の林紀幸さん(66)。多くの“ロケットマニア”が、林さんの話を聞こうと、夜の歌舞伎町に集まってくる。歌舞伎町とロケット。二十二日夜にあった、何ともミスマッチなイベントに潜入した。

会場は、雑居ビルの地下二階にあるトークライブハウス「ロフト・プラスワン」。開始予定の午後七時半の一時間以上前から、三十代を中心に百人以上のファンが行列をつくる。イベントは「ロケットまつり」。SF作家やノンフィクションライターらでつくる「宇宙作家クラブ」の主催で、一昨年秋からスタートし今回で十一回目を数える。

 林さんは高校卒業後、東京大学生産技術研究所に入り、日本のロケット開発の父・故糸川英夫さんに師事。定年退職するまでの四十二年間に、約四百三十機のロケット打ち上げに携わった。現在も、小中高校の講演で宇宙開発の魅力を伝えているが、「このイベントならではの面白さがある」という。

 参加者のほとんどが、ロケットに蘊蓄(うんちく)のあるマニア。林さんは「中には僕より詳しいオタクもいるので緊張感がある。小さなライブハウスなので、すぐに返事が返ってくるし、鋭い質問もある。夜遅いイベント? 楽しいからまったく疲れも感じない」。会場にはビールを飲みながらメモを取る人や、ちゃっかり録音する若者の姿も。会場の雰囲気を知ってか知らでか、時には技師(現場)でしか知り得ない「ここだけの話ですよ」を連発。当時の資料や映像も公開し、マニアの心をくすぐる。

 同ライブハウスのプロデューサー、斉藤友里子さんは「当初は科学っぽいイベントだったが、林さんの話には、開発に携わる人間のドラマもある」と話す。ある日のエピソード。「ロケット打ち上げに失敗したらどうするのか」の質問に、林さんが「即座に忘れること。小さいことにこだわるなですよ」と即答すると、会場からスタンディングオベーションが起きたという。

 主催者の一人でSF作家の笹本祐一さんは「普段、歌舞伎町に来そうにない人が、これだけ集まるのがこのイベントのすごさ」と言う。「中でも林さんの存在は大きく、こんな資料出してもいいのって思うものも出てくる」そうだ。

 宇宙作家クラブから「ロケットの神様」と呼ばれる林さん。「地元の伊勢や二見で、ロケットまつりの出前開催もしてみたい」と意欲を見せている。 (中日)