2008-12-22 米国記者の目:スモール・サイエンスの進展、他分野との相乗効果をもたらす:フェニックスが好例

 先進技術の歴史を全般的に見ると、明確に断言できることが1つある。それは、「材料科学に大きく依存している」ということだ。特にエレクトロニクス分野に関しては、これが良く当てはまる。

 材料科学は、電気的属性や機械的属性、化学的属性、物理的属性などの微小な値を測定したり制御したりする技術はもちろんのこと、超高純度物質や新物質、ナノ粒子、被膜、インプランテーション、パッケージング、固体物理学のいずれをとっても、1つ1つがエレクトロニクス産業の基礎をなす重要な要素である。

 これは、2008年12月上旬に米マサチューセッツ州ボストンで開催された材料学会(MRS:Materials Research Society)の年次会議のメッセージの1つである。この会議には、学者や学生、企業の研究者、アプリケーションの専門家など、世界中から5000人が集まった。記者は、この会議のプログラムを眺めたり、展示会場を歩いたりするうちに、ニッチ技術の多様性(diversity)と多元性(multiplicity)に感銘を受けた。

 記者の観点では、材料科学は研究開発が最も盛んで、隆盛期にある科学分野である。材料科学には多様なニッチ技術が存在し、それらがさらなるニッチ技術に細分化されており、新たな道筋やチャンスを模索するとともに、材料や製品、装置(対象とする粒子が小さいほど、装置は大型化する)によって他分野の取り組みを支援しながら、予期せぬ相乗効果をもたらしている。1つの分野で何らかの進歩があると、ほかの分野でも連動が起こり、思いがけない方法で共に発展する。つまり、「何かが起こる」のだ。この場合の「何か」とは、インフラのサポートや予期せぬ進展、偶然の組み合わせ、さらには偶然の発見(セレンディピティ)が、理想的な形で組み合わさったものである。

 こうした「スモール・サイエンス」を「ビッグ・サイエンス」と比べてみよう。ビッグ・サイエンスとは例えば、欧州合同原子核研究機構(CERN:European Organization for Nuclear Research)が約100億米ドルの資金を投入した大型ハドロン衝突型加速器(LHC:Large Hadron Collider:LHC)のプロジェクトや、米航空宇宙局(NASA)のさまざまな巨大プロジェクトなど、大いに注目を集める科学分野である(サブ原子領域の研究は、その価値をどのように評価するかに関わらず、巨額の資金を要する)。

 記者が懸念するのは、こうしたビッグ・サイエンスのプロジェクトである。科学的進歩の停滞や官僚政治のよどみなどを生む恐れがあるからだ。こうしたプロジェクトはたいていの場合、予測可能かつ組織的な発展のための研究開発とその実現を前提として実行される。ところが歴史を振り返れば、その通りの結果になることはまれである。

 NASAで以前に科学ミッション関係のトップを務めていたAlan Stern氏は、米New York Times紙に寄稿したコラム「NASA's Black Hole Budgets(NASAのブラックホール的予算)」の中で、核心を突いた指摘をしている。同氏は例として、ジェームズ・ウエッブ(James Webb)宇宙望遠鏡プロジェクトが当初10億米ドルだった予算を40億米ドルも超過したことや、火星探査機「ローバー」がすでに18億米ドルの予算を使い果たしていることを挙げた。

 しかしこれらとは対照的に、火星探査機「フェニックス」のプロジェクトでは、特定領域に焦点を絞ったチームが、ジェット推進研究所(JPL:Jet Propulsion Laboratory)などの専門家によるサポートを受けることで、はるかに少ない予算で大成功を収めたという例もある。

 もちろん、月着陸船「アポロ」や原子爆弾の開発などのように、大規模なプロジェクトが必要な分野もある。しかし、予期せぬ方法で技術の進歩をもたらすのは、今回の材料科学会議で記者が目にしたように、小規模でありながら機知に富んだ相乗効果的な取り組みや、多種多様なインフラなのではないだろうか。(EETimes)